2025年1月17日(金) テアトル新宿ほか全国公開

原作:筒井康隆『敵』(新潮文庫刊)
監督・脚本:吉田大八
長塚京三
瀧内公美 河合優実 黒沢あすか
中島歩 カトウシンスケ 髙畑遊 二瓶鮫一
髙橋洋 唯野未歩子 戸田昌宏 松永大輔
松尾諭 松尾貴史

企画・製作:ギークピクチュアズ

宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
製作:「敵」製作委員会
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA

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Trailer

Story

渡辺儀助、77歳。大学を辞して10年、フランス近代演劇史を専門とする元大学教授。20年前に妻・信子に先立たれ、都内の山の手にある実家の古民家で一人慎ましく暮らしている。講演や執筆で僅かな収入を得ながら、預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。収入に見合わない長生きをするよりも、終わりを知ることで、生活にハリが出ると考えている。

毎日の料理を自分でつくり、晩酌を楽しむ。朝起きる時間、食事の内容、食材の買い出し、使う食器、お金の使い方、書斎に並ぶ書籍、文房具一つに至るまでこだわり、丹念に扱う。

麺類を好み、そばを好んで食す。たまに辛い冷麺を作り、お腹を壊して病院で辛く恥ずかしい思いもする。食後には豆を挽いて珈琲を飲む。食間に飲むことは稀である。使い切ることもできない量の贈答品の石鹸をトランクに溜め込み、物置に放置している。

親族や友人たちとは疎遠になったが、元教え子の椛島は儀助の家に来て傷んだ箇所の修理なども手伝ってくれるし、時に同じく元教え子の鷹司靖子を招いてディナーを振る舞う。後輩が教えてくれたバー「夜間飛行」でデザイナーの湯島と酒を飲む。そこで出会ったフランス文学を専攻する大学生・菅井歩美に会うためでもある。

できるだけ健康でいるために食生活にこだわりを持ち、異性の前では傷つくことのないようになるだけ格好つけて振る舞い、密かな欲望を抱きつつも自制し、亡き妻を想い、人に迷惑をかけずに死ぬことへの考えを巡らせる。 遺言書も書いてある。もうやり残したことはない。

だがそんなある日、パソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。

いつしかひとり言が増えた儀助の徹底した丁寧な暮らしにヒビが入り、意識が白濁し始める。やがて夢の中にも妻が頻繁に登場するようになり、日々の暮らしが夢なのか現実なのか分からなくなってくる。

「敵」とは何なのか。逃げるべきなのか。逃げることはできるのか。
自問しつつ、次第に儀助が誘われていく先にあったものは――。

Cast

長塚京三
瀧内公美
黒沢あすか
河合優実
松尾諭
松尾貴史
中島歩
カトウシンスケ
長塚京三
1945年生まれ、東京都出身。パリ大学ソルボンヌ在学中に、フランス映画『パリの中国人』(74)でデビュー。以降、多くのドラマや映画に出演。『ザ・中学教師』(92)、『ひき逃げファミリー』(92)で第47回毎日映画コンクール男優主演賞を受賞、『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(97)では第21回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した。主な出演作に、ドラマ「金曜日の妻たちへ」(84.85)シリーズ、「ナースのお仕事」シリーズ(96.97.00)、大河ドラマ「篤姫」(08)、「眩(くらら)~北斎の娘~」(17)、映画『恋と花火と観覧車』(97)、『笑う蛙』(02)、『長い長い殺人』(08)、『ぼくたちの家族』(13)、『UMAMI』(22)、『お終活 再春!人生ラプソディ』(24)などがある。
瀧内公美
1989年生まれ、富山県出身。2014年に『グレイトフルデッド』で映画初主演。主な出演作に、『日本で一番悪い奴ら』(16)、『彼女の人生は間違いじゃない』(17)、『由宇子の天秤』(21)など。『火口のふたり』(19)では第93回キネマ旬報主演女優賞、第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。新作に、マーク・ギル監督の『レイブンズ』(25年3月公開予定)がある。
黒沢あすか
1971年生まれ、神奈川県出身。1990年に『ほしをつぐもの』で映画デビュー。主な出演作に、映画『愛について、東京』(93)、『嫌われ松子の一生』(06)、『沈黙 -サイレンス-』(17)、『楽園』(19)、『親密な他人』(22)、『658km、陽子の旅』(23)、『歩女』(24)などがある。『六月の蛇』(03)で第23 回ポルト国際映画祭最優秀主演女優賞、第13回東京スポーツ映画大賞主演女優賞、『冷たい熱帯魚』(11)で第33回ヨコハマ映画祭助演女優賞受賞を受賞した。
河合優実
2000年生まれ、東京都出身。『サマーフィルムにのって』(21)、『由宇子の天秤』(21)で、第43回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第95回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞、第64回ブルーリボン賞新人賞などを受賞。24年の主な出演作に、ドラマ「不適切にもほどがある!」、「RoOT / ルート」映画『あんのこと』、『ルックバック』(声の出演)、『ナミビアの砂漠』などがある。
松尾諭
1975年生まれ、兵庫県出身。映画『忘れられぬ人々』(00)で俳優デビュー。主な出演作に、『SP』シリーズ(07~11)、『テルマエ・ロマエ』(12)、『進撃の巨人ATTACK ON TITAN』(15)、『シン・ゴジラ』(16)、『地獄の花園』(21)、『牛首村』(22)、『あまろっく』(24)、『十一人の賊軍』(24)など。自身のエッセイをドラマ化した「拾われた男」(22)も話題になった。
松尾貴史
1960年生まれ、兵庫県出身。テレビ・ラジオはもとより、映画・舞台、イベント、エッセイ、イラスト、折り紙等、幅広い分野で活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(ぱんにゃ)店主。2021年の舞台「鷗外の怪談」にて第56回紀伊國屋演劇賞個人賞、第29回読売演劇大賞優秀男優賞をダブル受賞。近年の主な出演作に、舞台「ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ」(18)、「桜の園」(23)、「ダブリンの鐘つきカビ人間」(24)、映画『白鍵と黒鍵の間に』(23)、ドラマ「RoOT / ルート」(24)など多数。
中島歩
1988年生まれ、宮城県出身。『グッド・ストライプス』(15)で映画初主演、『サタデー・フィクション』(19)で初の海外作品出演を果たす。近年の主な出演作に、『サイレントラブ』(24)、『違う惑星の変な恋人』(24)、『パレード』(24)、『四月になれば彼女は』(24)、『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(24)、『ナミビアの砂漠』(24)など。公開待機作に『HAPPYEND』(10月4日公開)などがある。
カトウシンスケ
1981年生まれ、東京都出身。『ケンとカズ』(16)で第31回 高崎映画祭最優秀新進俳優賞受賞。主な出演作に、『名も無い日』(21)、 『ONODA 一万夜を越えて』(21)、『誰かの花』(22)、『ある男』(22)、『ツーアウトフルベース』(22)、『福田村事件』(23)、『大名倒産』(23)、『ミッシング』(24)、『若き見知らぬ者たち』(24)などがある。

Staff

監督・脚本:吉田大八
撮影:四宮秀俊
照明:秋山恵二郎
美術:富田麻友美
音楽:千葉広樹
録音:伊豆田廉明
フードスタイリスト:
飯島奈美
監督・脚本:吉田大八
1963年生まれ、鹿児島県出身。大学卒業後はCMディレクターとして活動。数本の短編を経て、2007年、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画デビュー。第60回カンヌ国際映画祭批評家週間部門に招待された。『桐島、部活やめるってよ』(12)で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞。『紙の月』(14)は第27回東京国際映画祭観客賞、最優秀女優賞受賞。『羊の木』(18)で第22回釜山国際映画祭キム・ジソク賞受賞。その他の作品に、『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10)、『美しい星』(17)、『騙し絵の牙』(21)がある。舞台に「ぬるい毒」(13/脚本・演出)、「クヒオ大佐の妻」(17/作・演出)、ドラマに「離婚なふたり」(19)など。
撮影:四宮秀俊
1978年生まれ、神奈川県出身。大学在学中2001年に映画美学校F6期に入学。高等科卒業後、撮影助手を経て撮影技師に。主な作品に、『Playback』(12)、『きみの鳥はうたえる』(18)、『ミスミソウ』(18)、『さよならくちびる』(19)、『宮本から君へ』(19)、『ドライブ・マイ・カー』(21)、『違国日記』(24)などがある。第41回、42回ヨコハマ映画祭撮影賞、第45回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。
照明:秋山恵二郎
東京都出身。主な作品に、『ハッピーアワー』(15)、『セトウツミ』(16)、『きみの鳥はうたえる』(18)、『さよならくちびる』(19)、『花束みたいな恋をした』(21)、『窓辺にて』(22)、『マイ・ブロークン・マリコ』(22)、『夜明けのすべて』(24)、『ナミビアの砂漠』(24)などがある。
美術:富田麻友美
大阪市出身。CM美術デザイナーとして多くの作品を手掛ける。『落下する夕方』(98)より美術監督として活動を始める。『ロスト・イン・トランスレーション』(04)にアートディレクターとして参加し、全米美術監督家協会の美術賞にノミネート。主な作品に、映画『めがね』(07)、『騙し絵の牙』(20)、『川っぺりムコリッタ』(22)、『まる』(24)など。ドラマ「春になったら」(24)ではセットデザインを担当した。
音楽:千葉広樹
ベーシスト/作曲家。コントラバスと電子音によるサウンドスケープを奏でる音楽家。 2019年"ミナ・ペルホネン”のファッションショーの音楽を手がけた他、小金沢健人や雨宮庸介とのコラボレーション、arauchi yu(cero)、優河、Janis Crunchのプロデュースも手がける。優河with魔法バンド、蓮沼執太フィル、サンガツ、スガダイロートリオのベーシスト。
録音:伊豆田廉明
埼玉県出身。主な作品に、『わたしは光をにぎっている』(19)、『もっと超越した所へ。』(22)、『わたしの見ている世界が全て』(23)、『劇場版 美しい彼~eternal~』(23)、『MY (K)NIGHT マイ・ナイト』(23)、『Starting Over』(23)、『チャチャ』(24)などがある。『ドライブ・マイ・カー』(21)で、第45回日本アカデミー賞最優秀録音賞を受賞。
フードスタイリスト:飯島奈美
東京都出身。CMをはじめ、広告を中心に、映画、ドラマでフードスタイリングを担当。主な作品に、ドラマ「深夜食堂」(09~16)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、「舞妓さんちのまかないさん」(23)「団地のふたり」(24)、映画『かもめ食堂』(06)、『海街diary』(15)、『すばらしき世界』(21)、『ちひろさん』(23)などがある。

Comment

監督・脚本:吉田大八 
何十年も前に小説を読み終えた時から「敵って何?」という問いが頭を離れず、とうとう映画までつくることになりました。筒井先生の作品を血肉として育った自分にとってそれはかつてないほど楽しく苦しい作業の連続でしたが、旅の途中で長塚京三さんをはじめとする素晴らしい俳優たち、頼もしいスタッフたちと出会えてようやく観客の皆さんが待つ目的地が見えてきた気がします。 自分自身、この先こういう映画は二度とつくれないと確信できるような映画になりました。 僕は幸せです。
原作:筒井康隆
すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた。 登場人物の鷹司靖子、菅井歩美、妻・信子の女性三人がよく描き分けられている。 よくぞモノクロでやってくれた。
渡辺儀助役/主演:長塚京三
タイトルは、原作である筒井康隆先生の小説の表題を戴くと聞きました。吉田監督のシナリオは、概ね原作に準じるものだとも。両者とも大変興味深く読ませて戴いて、なんだろうこの主人公は、ほぼ監督そのままじゃないか、と思えてなりませんでした。ご自分でおやりになればいいのに、とさえ。難はただ一つ、「ちょっとばかり歳が足りないか!」。まだやり直しのきく年齢での「絶望」は、全き絶望とはいえませんからね。 冗談はさて置き、老耄に押しまくられて記憶が混濁し、授けを求めようにも、人も、物たちさえも、いつの間にか掌を反したように敵側に回っていて、恐らくは粗略でもあり、傲慢でもあったろう主人公の嘗てのあしらいに、幾星霜かを経て、なお復讐するかのようだ。 「この逆境、老残零落のシラノ(ド・ベルジュラック)だったらどうするだろう?」などと考えてみたら面白そうである。僕の最後の、いや最後から二番目あたりの映画として受けさせて戴きます。かなりの強行軍は承知ですが、共演者、スタッフの皆さんが、最後まで味方でいてくれることを信じて。「てき」、いいタイトルです。
鷹司靖子役/瀧内公美
いつかご一緒させてもらいたいと願っていた吉田大八組。大八さんの現場はとても不思議な空気感で、どの表現が良いのだろうかと試行錯誤しながら撮影を進めていましたが、なんだかほっこりしていてとても居心地が良い現場でした。 そして、長塚京三さんとの共演は言葉では言い尽くせないほど京三さんに魅了され、クランクアップの前日、明日でしばらくはお会いできないのかと思うとお風呂の中で涙が出たほどです。 とても不思議な面白い作品に仕上がっていると思います。わたしも今から「吉田大八ワールド」が楽しみです。
渡辺信子役/黒沢あすか
台本を手にしたとき、長塚さん演じる儀助との浴室シーンに、年齢を重ねてきたからこそ醸し出せる味わい深さを大切にしたいと思いました。大八監督が長年温めてきた、筒井康隆さん原作の「敵」。その映画化にあたり監督が手掛けた台本は、世間擦れしていない儀助の品性とノスタルジックな雰囲気が絶妙に融合し、夢か幻か、あるいはSFかと思わせる独特の世界観を感じました。出演者としてその一端を担えたことを光栄に思います。
菅井歩美役/河合優実
菅井歩美を演じました、河合優実です。 初めてご一緒させていただいた吉田大八監督の、この『敵』という作品への思い入れにまず刺激を受けたことを思い出します。このような作り手の熱がたしかにこもった映画に力を添えられるのはとても嬉しいことです。 短い時間ではありましたが、おそらくどの時代に読んでもどうにも魅惑的なこの物語のもと、未知なるものに顔を合わせ、考えてみる機会をもらいました。 ぜひ劇場で出会ってほしいです。

Review

最優秀監督賞 講評:ジョニー・トー氏
主人公の家を主な舞台に見立て、あらゆる視覚的要素を活かしながら、ある老人の心の世界と彼が直面する諸問題を描き出すことによって、人々に与える感動を見事に創ることに成功した。
東京グランプリ/東京都知事賞 講評:
トニー・レオン氏
私たちが悩みながらも口にすることを避けがちな人生の根本的な問いについて、勇敢で誠実な表現と知性、そして強烈で素晴らしいユーモアをもって語りかけてくれるこの作品に心を打たれました。それは純粋で最も気高い形の「真の映画」でした。脚本、撮影、編集、演技が、ミニマルな舞台設定を複雑で多層的に仕上げています。それは、成熟した、エレガントでありながらも新鮮で意外性のある映画表現であるとも言えます。
「島耕作」著者:
弘兼憲史氏
前半部分で現実的な日常を描いているからこそ、「”敵”というものは一体なんだろうか...」という期待感を持たせる作品です。
幻想や幻覚...あるいは夢がない混ぜになってくるから、観てる方も何が本当かよくわからない故、引き込まれていきました。
物書きで、担当編集者が家に来て・・・・という自分の生活とも重なり、非常に面白かったです。